
「え、個人でやってるのに、こんなに書類がいるの?」
そんな声をよく耳にします。
実際、現場に入る際には一人親方であっても“企業と同じレベルの安全書類”が求められるケースが増えてきました。
特に最近では、大手ゼネコンやサブコンといった元請企業がコンプライアンス強化を進めているため、健康診断書や建設キャリアアップシステムの証明書、技能講習の修了証コピーなど、提出しなければ現場に入れないことも。
ここでは一人親方が安全書類の中でも、問題となる「作業員名簿」を書く際にはどうすればよいのか?お伝えします。
雇用保険のように、そもそも一人親方は雇用保険に入れないのだから書けないという場合もあります。
そのような場合は「書かなくてよい」もしくは雇用保険番号の欄に「適用除外」と記載し、理由を補足(例:「一人親方のため加入対象外」)というのが正解です。
一人親方が提出する安全書類で問題なのは作業員名簿。書き方と注意点
現場で求められる安全書類の中でも、一人親方にとって最もややこしいのが“作業員名簿”です。
これは、一般的に企業の社員向けに作られた様式であるため、個人事業主である一人親方には記載しにくい項目が多いのが実情です。
本来、従業員として作業員名簿に入れるのであれば、雇用契約を結び、社会保険なども準備し、雇用保険の欄に記入しなければなりません。
一人親方なので元請けと雇用契約は結ばないのは当然なのですが、本来この名簿は雇用されている人を記入する名簿ですので、埋められない項目が存在してしまうのです。
ここでは、作業員名簿に含まれる代表的な項目について、一人親方としての正しい記入例や注意点を解説します。
氏名・ふりがな
- 氏名が間違っていると、現場入場の際に身分証明書と会わないので現場に入れなくなる可能性があります。特に在日外国人の方で、本名と通名と使い分けている方は注意です。
- 他の書類と表記に違いがないよう注意します。
職種
- 「大工」「塗装工」「電気工事士」など具体的に記載します。
- 「建設作業員」ではなく、自身の専門性を明確に。
- 場合よっては、複数の業種を担う場合もあります。また職種がわからない場合もあります。その場合は大枠で「型枠大工」「オペレーター」「電気工事工」「とび工」などと書けば問題ありません。
雇入年月日
- 所属する会社が雇用を開始した年月日を記入します。
- 一人親方の場合は、雇用関係ではないので記入しないか、もしくは「一人親方として独立した日」を記載します。
※書き方例:「令和2年4月1日(一人親方として活動開始)」など。
経験年数
- その職種での通算経験年数を記載します。
- 「10年」「15年」など半角数字で。正確な数字がわからない場合はおおよそでもOKです。自社の経験だけでなく、これまでのすべての経験を含みます。
生年月日/年齢
- 和暦または西暦で統一(例:昭和58年1月5日または1983年1月5日)
- 年齢は記入時点での満年齢を明記します。18歳未満の場合は別途書類で年齢を証明できる書類が必要となります。
- また労働基準法により18歳未満の場合、時間外労働(残業や休日出勤など)および危険有害業務(危険作業、高所作業、有害物質を扱う業務)への就労は禁止されています。
・時間外労働・休日労働の禁止(第60条)
・午後10時~午前5時までの深夜業務も禁止(第61条)
・労働時間は原則1日8時間・週40時間(第32条)
※労使協定(36協定)を結んでいても適用除外にはなりません。
・危険有害業務の就業禁止(第62条・省令第18条)
※具体例…刃物を使う機械の操作、建設業での足場作業、ガス溶接、化学薬品の取り扱いなど
現住所と電話番号
- 郵便番号から始め、番地まで正確に記載します。
- 電話番号は携帯で問題ありませんが、連絡が取りやすい番号を書きましょう。
家族連絡先と電話番号
- ケガをして救急車で運ばれたなど、万が一の緊急時のための連絡先です。
- 結婚している場合は配偶者、していない場合は両親や親族など、現場での連絡に対応できる人物を記入するのが一般的ですしかし書けない場合はその限りではありません。
最近の健康診断日
- 一般的には1年以内の定期健康診断の実施日を記入。
- 特殊健康診断を受けている場合は、その日付でもOK。
- 労働安全衛生法で、初期と年に1回の健康診断が義務付けられています。
- 最新の健康診断の日付を記入するようにしましょう。忘れないようにスマホのカレンダーなどに実施日や血圧など書いておくといいでしょう。
- また診断結果の紙をスマホのカメラで撮って保存しておくのも、いざという時にすぐに書けるので助かります。
血圧・血液型
- 健康診断結果からの転記が基本です。血圧の最低値と最高値をそのまま記入します。
- 数値や型が不明な場合は、健康診断を受けて記入するのが望ましいです。
特殊健康診断日と種類
- 有害業務従事者は半年毎に特殊健康診断を受けることが義務付けられています。
該当しない場合は空欄で構いません。
- なお特殊健康診断の種類には下記のようなものがあります。
- じん肺
有機溶剤
鉛
電離放射線
特定化学物質
高気圧業務
四アルキル鉛
石綿
雇入・職長・特別教育
- 雇用時に行っている教育など受講歴があれば「受講済み」と日付を記入します。
- 該当がない場合は「該当なし」「未受講」など明記し、空欄は避けましょう。
- 「職長教育」「フォークリフト」などの受講履歴や取得した資格があれば追記をしていきます。
※「特別教育」とは法律で決められたリキュラムで各企業が行う講習のことです。
技能講習
- 技能講習は労働局で行われているものであり、講習を受けたかどうかを指します。
- 特別教育と別物なので注意が必要です。
- 玉掛け・足場・フルハーネスなどの修了講習を記入します。
- 講習名・修了年月日・講習機関名を正確に書きましょう。
- 該当するものがない場合は「なし」と記入しましょう。
免許
- 電気工事士、車両系建設機械など国家資格を記載します。
- 免許番号も添えておくと信頼度がアップします。
※講習などではなく、試験を受けて合格した免許となります。特別講習・技能講習とは別物になります。
入場年月日
- 今回の現場に入場する日付を記載します。
- 実作業前に提出を求められることが多いので注意が必要です。
- 基本的に初日は不明な場合が多いため空白にしておき、後ほど追記する場合が多いです。
受入教育実施年月日
- 現場でのKY(危険予知)活動や元請からの安全教育を受けた日です。
- 当日または直前の実施が一般的です。
雇用しない一人親方を社員として名簿に載せられるか
では一人親方を自社の社員と偽って名簿に載せることができるか?というと、やはりそうはいきません。
名簿で書くのに困るのは入社年月日ぐらいですが、別紙の社会保険加入状況の用紙は埋めることができません。なぜならこの用紙には
- 健康保険番号
- 年金保険番号
- 雇用保険番号
を記入する項目があるからです。
健康保険番号は、国民健康保険などを用意すればいいですが、雇用保険に関しては雇用関係がなければ発行されません。つまり一人親方では会社の雇用保険に入ることができないのです。
ここをごまかして嘘をついてしまうと虚偽の申告をすることになり、発覚すれば今後の受注に影響を及ぼすことになりかねません。
雇用保険に入れない一人親方はどうすべきか
一人親方は基本的に再下請通知書を作成し、下請として登録をしてそれぞれで安全書類を提出しなければなりません。
それが難しい場合、雇用するしかありません。しかしその際は社会保険や雇用保険なども準備する必要があります。
契約はアルバイトとしてでも、契約社員としてでも構わないので、きちんと雇い入れることが重要です。
一人親方でも同じ会社に何年も在籍して、社員と同じように働いている方も多くいるようです。
しかし一人親方は保険なども自分で入らなければなりませんし、その会社の社員とはきちんと一線を画す必要がありますので気を付けましょう。