泥棒

現場で使う工具は、一人親方にとってまさに商売道具。

効率を上げるために高価な電動工具や精密機器を揃えている方も多いでしょう。

しかし、その工具・・・実は常に“狙われている”かもしれません。

実は現場では工具の盗難が増えています。

特に大きな現場は様々な業種の業者が入り交じり、さらに多国籍化しているので、誰が盗んでいるのか全く分からない状態になりやすいのです。


内部犯の可能性が高い盗難

現場での盗難事件、実は犯人として多いのは内部犯です。

もちろん外部の人が現場に入り込んで盗むことも多いですが、日中堂々と作業している中で他の業者の工具置き場に行って盗むのは容易ではありません。

いつ人が来るかもわからないです。

それに対し、現場関係者や身内であれば工具や資材の位置を熟知しており、人がいつ出入りするかも把握しやすいので、持ち出しても怪しまれにくいのです。

実際の例

  • 2022年、神奈川県の建設現場で同僚作業員が他人のインパクトドライバーやレーザー墨出し器を盗み、フリマアプリで転売。被害額は30万円以上。
  • 2023年、東京都内の現場で、下請け業者の作業員が発電機を盗んで質屋に持ち込み、監視カメラ映像から発覚。

特に盗まれやすい工具

現場で狙われやすい工具には共通点があります。

「高額」「軽い」「転売しやすい」 ― この条件が揃うと盗難リスクは急上昇します。

精密測定器

レーザー測定器やレーザー墨出し器などは特に危険。

軽量で持ち運びやすく高額なため、フリマアプリや中古市場ですぐに売れてしまいます。

電動工具全般

インパクト、ドリル、丸ノコ、グラインダー、ジグソーなど。

特に日本のメーカーであるMakita(マキタ)やHiKOKI(ハイコーキ)、Panasonic(パナソニック)は海外でも人気が高いです。

電動工具はネット転売が容易で、足もつきにくいため盗難の常連。

実際、メルカリでは中古電動工具が高額で多数取引されており、その一部は盗品とみられるケースもあります。

フルハーネス型安全帯

フルハーネス型安全帯は、2019年の法改正によって高さ5m以上での作業では着用が義務化されました。

これに伴い現場での需要が一気に高まり、盗難のターゲットとなるケースが増えています。

特に、2022年以降も使用できる新規格のハーネスは要注意です。

従来品よりも安全性・耐久性が向上している一方で、価格も高額。そのため盗まれやすく、転売市場でも人気があります。

実際にメルカリなどのフリマサイトを覗くと、中古のフルハーネスが数多く出品されています。

しかし、それが盗難品かどうかを見分けるのはほぼ不可能です。

現場でも盗難被害の報告が年々増加しており、自分のハーネスは自分で守るという意識が必要になっています。

コンプレッサー・発電機

コンプレッサーや発電機といった機材は、大型で重量もあるため「盗まれにくい」と思われがちです。

しかし実際には、盗難被害の多い代表的な工具のひとつです。

理由はシンプルで、転売すればすぐに現金化できるから

たしかにサイズも大きく持ち運びは手間ですが、人手をかければ容易に持ち出せる重さであり、さらに高額で売れるという特徴があります。

フリマサイト(メルカリなど)を見ても、見た目がボロボロのコンプレッサーでさえ想像以上の高値で取引されています。

そのため「うちのは古いから大丈夫」「こんな状態のものを盗む人はいない」と油断していると、逆に狙われてしまう可能性が高いのです。

つまり、コンプレッサーや発電機は新品・中古・状態を問わず、常に盗難リスクがあると考えるべきです。

今もっとも危険な「車両ごとの盗難」

近年急増しているのが車両ごとの盗難です。

一人親方にとって車は仕事そのものです。

毎日、大量の工具を積んで現場へ向かい、終わったらそのまま帰宅。

「わざわざ毎日降ろすのは面倒だし…」と、工具を車に積みっぱなしにしている方がほとんどではないでしょうか?

しかし、その油断こそが最大の落とし穴。

今、工具を積んだ自動車そのものが盗難の標的になっています。

しかも相手は素人泥棒ではなく、プロの窃盗団

深夜など、ほんの少し目を離した隙にエンジンをかけられ、そのまま車ごと持ち去られるケースが急増しています。

積んでいた工具はメルカリなどのフリマアプリで簡単に転売され、車両本体もハイエースや軽バンなどは海外での需要が高いため、すぐ港に運ばれ船で海外へ輸出されてしまいます。

一度海外に流れてしまえば、まず戻ってくることはありません

たとえ車両保険に加入していても補償されるのは車だけ。

中に積んであった工具一式は保険の対象外なので、すべて自費で買い直すしかありません。

そうなれば何十万、場合によっては数百万円規模の損失になり、翌日からの仕事にも大きな支障が出てしまうのです。

だからこそ今、一人親方が一番気をつけるべきなのは、車両ごとの盗難対策なのです。


転売目的の盗難が多数

盗まれた工具は現場で使われるよりも、転売されるケースが圧倒的に多いです。

持ち主の目の前で盗品を使うリスクを避けるため、メルカリや質屋で現金化されます。

裁判例

  • 大阪地裁(2021年):建設現場で盗んだ電動工具を質入れした被告に懲役1年6か月(執行猶予3年)の有罪判決。

盗難を防ぐための5つの対策

  1. 名前(屋号)を書く
     簡単に消せない方法で刻印や彫り込みを行う。現場でもよく見かけれるのがスプレーまみれで汚くなった工具。これは使用して汚れてしまったのではなく、新品で購入後にすぐにわざと汚しているのです。またマジックで大きく会社名を書いたりしている人もいます。こうしておけば転売で高く売れませんし、何より足がつきやすくなります。せっかく新品を買ったのにもったいないと思わず、このように消せないような文字や汚れをつけるのは賢明です。
  2. 目を離さない
     特に高額工具は常に視界に置く。盗まれるタイミングとしてよくあるのが工具の充電中や、昼休みで食事に出かけてしまっている時です。充電も常に目の届くところで行い、こまめにあるかチェックしましょう。また外出する際は必ず鍵付きの工具箱に入れるなどして対策しましょう。
  3. 現場に置いて帰らない
     内部犯だけでなく夜間侵入による盗難も防ぐ。盗難のタイミングとして、誰もいない深夜というのも非常に多いです。朝現場に行ってみたら工具や部材がなくなっていた・・・。こんなケースもよくあります。どうしても置いて帰る場合は重くて運びづらい大きなカギ付きの工具箱に入れる、戸締りなどをしっかりして夜中に侵入できないようにする、防犯カメラを付けるなど、帰った後の対策もしっかり行いましょう。
  4. 車に工具を置きっぱなしにしない
     やむを得ない場合はミラーフィルムなどで中を見えなくする。車の中に置いておいても安心できません。中に工具があるバンなどは車上荒らしに狙われやすいのです。車上荒らしに合うと工具だけでなく割られた窓ガラスの修理にも多額の費用が掛かります。ですので少なくともミラーフィルムを貼るなどして車内が見えないようにするなどしましょう。
  5. 工具防犯登録を利用する

工具防犯登録を利用する

埼玉労災一人親方部会提携の「職人さん.com」では、全国の工具防犯登録認定店で新規購入した工具の防犯登録が可能です。

シリアルナンバーを登録しておくことで、盗難時に警察へ被害届を提出しやすくなり、盗品が転売されにくくなります。


濡れ衣を防ぐために

盗難事件が起きると、その場にいた全員が疑われる可能性があります。

必要以上の工具を持ち込まず、すべての持ち物を把握できる状態にしておきましょう。名前を書いておくことも、自分を守る手段のひとつです。


高額・転売可能・持ち出しやすい工具は要警戒

現場では常に「盗難犯が近くにいるかもしれない」という意識を持つことが重要です。
特に「高額」「転売可能」「持ち出しやすい」という条件が揃った工具は絶対に油断しないこと。

1度盗まれると、この会社は簡単に盗めると思われてしまい、何度も狙われる可能性もあります。

必ず対策を講じて盗難を防ぎましょう。