保険証券

民間保険では現場に入れない理由

「損保ジャパン等の保険に入っているから大丈夫」と思っていませんか?

それ、かなり危険な勘違いです。建設現場で求められているのは国の労災保険(特別加入制度)であって、民間の傷害保険や労災上乗せ保険ではありません。

なぜかというと、建設現場は労災保険上、会社と同じ「ひとつの事業所」と見なされ、その事業所で働く全員に政府労災保険の適用が求められるからです。

民間保険には「一人親方労災保険」という正式商品は存在せず、あくまで「傷害保険」や「労災上乗せ保険」という形になります。

保障範囲や給付条件も国の労災保険とは全くの別物です。


損保ジャパン等の保険商品の実態

例えば、損保ジャパンの「労働者総合災害保険」は一人親方向けではなく、事業者向けの上乗せ補償です。

社員が労災に遭ったときに追加で補償する目的で使われるもので、元となる政府労災保険に加入していることが前提です。

つまり、単体で加入しても「労災保険に入っている」とは認められません。

こうした保険は「傷害保険」という名前では売れにくいため、建設業向けにカスタマイズして販売されているだけで、内容的にはあくまで労災の“オプション”なのです。


悪質な“インチキ一人親方労災保険”に注意

中には、民間保険会社や代理店が「一人親方労災保険」と称して、ただの傷害保険を販売しているケースもあります。

名称自体は法律違反ではありませんが、あたかも政府労災の代わりになるかのように宣伝するのは、極めて紛らわしいやり方です。

もちろん、労災上乗せ保険や傷害保険を否定するわけではありません。

実際、被災者への補償を手厚くするという点では意義があります。ただし、「代わりにはならない」という事実を忘れてはいけません。


感情的な注意喚起

本当にその保険で、あなたは守られますか?

あなたが今持っているその保険証券・・・

事故の瞬間、それはただの紙切れになるかもしれません。

墜落、感電、火傷、倒壊事故・・・

病院のベッドで目を覚ましたとき、仕事も収入も失われ、追い打ちをかけるように「給付対象外」と告げられる。

それが“インチキ労災保険”の現実です。


実際の事故例

足場からの墜落事故(広島県)

50代の一人親方が造船所内で配管工事中、足場板が外れ5メートル下に墜落。骨盤骨折で8か月入院。民間の傷害保険には加入していたが、現場入場条件の政府労災に未加入だったため、元請けの安全配慮義務違反も認められず補償ゼロ。

鉄骨倒壊による圧死(千葉県)

建造中の船体ブロックで鉄骨が仮固定から外れて倒れ、作業員を直撃。家族は損害賠償請求を起こしたが、被災者が一人親方で政府労災未加入だったため、補償金額は国労災加入者の半分以下に。

火花による火災事故(愛知県)

ガス溶断作業中、断熱材に火花が引火し船内火災発生。重度の火傷を負ったが、加入していた民間傷害保険の補償額はわずか50万円。治療費と生活費の穴埋めには到底足りず、廃業に追い込まれる。


実際の裁判例

東京地裁平成29年判決

現場で事故に遭った一人親方が、加入していた民間保険で「労災と同等の補償がある」と思っていたが、実際には上乗せ保険であったため給付が拒否された事案。
裁判所は「政府労災の代替にはならないことは明らか」として、保険会社側の説明不足は認めたが、加入者にも注意義務があると判断し、補償はわずかに減額されたのみ。


労災上乗せ保険とは?

労災上乗せ保険は、政府労災保険の給付が行われることを前提に、さらに補償を追加するものです。

逆に言えば、政府労災が適用されなければ、保険金は一切支払われません。

加入するのは主に従業員を抱える建設会社で、理由は以下の通りです。

  • 安全配慮義務違反による訴訟リスク回避
  • グリーンサイト登録のため
  • 経営事項審査での加点

一人親方が入るべき保険というよりも、事業者向けのリスク管理商品です。


現場保険・工事保険との違い

政府労災保険はあくまで「人」に対する補償です。

作業中にケガをした場合、治療費・休業補償・障害補償・遺族補償などが給付されます。

一方、工事保険や現場保険は「物」や「第三者」に対する損害を補償するものです。
例:

  • 塗装中に隣家の車に塗料を飛ばしてしまった
  • 足場の倒壊で通行人をケガさせた
  • 現場の資材が盗難にあった

こうしたケースは労災保険ではカバーされないため、別途保険に加入する必要があります。


現場に入れるのは政府の一人親方労災保険だけ

建設現場で必要なのは、政府の特別加入労災保険(通称:一人親方労災保険)であり、民間保険だけでは現場には入れません。

この保険に加入するには、労災保険特別加入団体を通す必要があります。

団体は形式的に「事業所」と見なされ、一人親方は「そこの従業員」という扱いになります。

保障内容はどこで加入しても法律で同一ですが、団体ごとにサービス内容や会員サポートが異なります。


団体選びの注意点

近年は、会費の安さや手続きの早さだけを売りにする団体も増えていますが、それだけで選ぶのは危険です。

中には政治活動に利用されたり、実質的なサポートが全くない団体も存在します。

理想は、一人親方の安全衛生・福利厚生をしっかりサポートし、事故発生時にも迅速かつ親身に対応してくれる団体です。
「入れればどこでもいい」ではなく、自分の仕事と生活を守ってくれるパートナーとして団体を選びましょう。


まとめ

  • 民間保険では建設現場に入れない。必要なのは政府の特別加入労災保険。
  • 「一人親方労災保険」という商品名の民間保険は存在しない。
  • 労災上乗せ保険や傷害保険はあくまで補助的役割。
  • 現場保険・工事保険は物や第三者の損害に備える別枠の保険。
  • 加入する団体選びが将来の安心を左右する。